最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)1223号 判決 1948年11月25日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役六年に處する。
押収されているナイフ一挺(昭和二三年押第一二一六號の一)及び白マスク二個(同押號の二及び三)はいずれもこれを沒収する。
理由
辯護人岸達也上告趣意第二點について。
住居侵入の罪は故なく人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し又は要求を受けてその場所から退去しないことによって成立するものであって、犯人の身分により構成され又は刑の輕重を來たすべき犯罪ではない。唯犯人と被害者との間に、特別な身分關係--例えば親子の關係--が存在するようなときは、かかる身分關係のない者の場合よりも、その侵入が「故なく」爲されたものでないと見るのを相當とする場合が比較的多いであろうといい得るに過ぎない。本件において、原審は「被告人が第一審相被告人等三名と共謀して、當時出奔していた実父岩淵寿雄方に、共犯者にその実父の家であることを告げず、午後一一時三〇分頃強盗の目的を以て侵入した」との事実を認定しているのである。この場合、もし被告人が家出したことを後悔して父に謝罪するつもりで涙の歸宅をしていたものとすれば、たといかかる深夜戸締りを破っての侵入であったとしても、父にとってそれは迷える羊の歸還であり、心からの歡喜そのものであったかも知れないのであって、もとより住居侵入罪の成立しよう筈はないのである。しかし、これが強盗の目的で、しかも共犯者三名をも帶同して深夜家宅内に侵入したとあっては、たといそれが嘗ては自らも住み慣れたなつかしい実父の家であるとしても、父としても、世間としても、これを目して正當な「故ある」家宅の侵入とは認めえないであろう。されば原審の確定した被告人等の右所爲は、數人共同して住居侵入罪を実行した場合に該當すること勿論であって、刑法第一三〇條第六〇條により問擬せらるべきものなのである。しかるに、原審は右事実を認定しながら刑法第六〇條を適用せず、犯人の身分により構成すべき犯罪行爲に加功したその身分なき者をなお共犯とする同法第六五條第一項を適用したのは論旨主張の通り擬律の錯誤あるものといわざるを得ない。原判決はこの點において全部破棄を免れ得ないのである。(その他の上告論旨に對する判斷は省略する。)
よって刑訴第四四七條第四四八條に從って、原審の確定した事実に法律を適用すれば、被告人の所爲の中住宅侵入の點は刑法第一三〇條第六〇條に、強盗の點は同法第二三六條第一項第六〇條に各該當するが右両所爲はその間手段結果の關係があるから同法第五四條第一項後段第一〇條により重い強盗罪に從い、その所定刑期範圍内で被告人を懲役六年に處し、主文第三項掲記の物件は本件犯行の用に供したものであって犯人以外の者に属しないから同法第一九條第一項第二號第二項によりいずれもこれを沒収すべきである。よって主文の通り判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔)